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東京地方裁判所 平成8年(ワ)407号 判決

原告

エイアイユーインシュアランスカンパニー

被告

野口英壽

主文

一  被告は、原告に対し、金三四八一万円及びこれに対する平成六年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文同旨

二  被告

請求棄却

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成六年三月二一日午後八時二五分ころ

(二) 場所 茨城県鹿島郡旭村樅山六〇四の四(国道五一号線上)

(三) 被害車両 普通貨物自動車(水戸四〇に二五五二)

(四) 右運転者 亡飯島満(以下「亡飯島」という。)

(五) 加害車両 普通貨物自動車(水戸四〇ま九八七九)

(六) 右運転者 小林勝豊(以下「小林」という。)

(七) 事故態様 亡飯島が、事故現場の片側一車線の道路を、三名を同乗させて被害車両を運転していたところ、反対車線から小林の運転に係る加害車両がセンターラインを越えて被害車両の車線に侵入して、正面衝突した。

(八) 事故結果 平成六年四月一一日、亡飯島は、本件事故により死亡した。

2  責任原因

被告は、加害車両の所有者であるから、自己のために運行の用に供する者であるとして、自賠法三条に基づき、亡飯島に生じた損害を賠償する義務がある。

3  損害

本件事故により亡飯島の相続人らに生じた損害は、次のとおりである。 六四八一万〇〇〇〇円

(1) 逸失利益 五〇五一万〇〇〇〇円

亡飯島は、本件事故当時四五歳の会社員であり、一家の支柱であつた。同人の死亡時から満六七歳まで、賃金センサスの年齢別平均給与四九四万八八〇〇円を基礎として、逸失利益を算定すると、五〇五一万円となる。

(2) 慰藉料 一三五〇万〇〇〇〇円

(3) 葬儀費用 八〇万〇〇〇〇円

4  保険者による支払い

原告は、亡飯島との間で、被害車両につき、自家用自動車保険契約を締結していたところ、右保険契約に基づき、本件事故につき、平成六年一〇月末日までに、保険金請求権者である亡飯島の相続人全員及び父母に対し、三四八一万円(前記損害額合計六四八一万円から政府保障事業によるてん補金額である三〇〇〇万円を控除した額)を無保険者傷害保険金として支払つた。

5  保険代位

原告は、商法六六二条により、亡飯島の相続人全員及び父母が被告に対して有する損害金請求権を右三四八一万円を限度として取得した。

6  よつて、被告は、原告に対し、三四八一万円及び右損害賠償請求権を取得した日の翌日である平成六年一一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

二  請求原因に対する被告の認否及び反論

1  認否

請求原因1、3ないし5は知らない。同2は否認し、同6は争う。

2  反論

小林は、被告宅に宿泊をしていたところ、被告の知らない間に、加害車両を無断で運転して、本件事故を起こした。小林が無断で運転を開始した時点で、被告は、加害車両の運行支配を失つた。したがつて、被告は運行供用者責任を負わない。

三  被告の反論に対する原告の認否

被告の反論は、否認する。

第三証拠

証拠関係目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  甲第一ないし第一一号証によれば、請求原因1、2のうち被告が加害車両を所有していること、4、5の各事実を認めることができる。

なお、本件事故により、亡飯島の相続人らに生じた損害の額は、以下のとおりの金額となる。

(1)  逸失利益 六四八二万四八七九円

平成六年賃金センサス男子学歴計(四五歳ないし四九歳)の年収額七〇三万五四〇〇円を基礎とし、生活費として三割を控除し、就労可能年数二二年に対応するライプニツツ係数一三・一六三〇により算定すると、以下のとおりとなる。

7,035,400×0.7×13.1630=64,824,879

(2)  慰藉料額 二四〇〇万〇〇〇〇円

(3)  葬儀費用額 一二〇万〇〇〇〇円

右合計金額九〇〇二万四八七九円から、政府保障事業分としてのてん補金額三〇〇〇万円を控除すると六〇〇二万四八七九円となり、原告の支払つた金額三四八一万円を超えることになるから、原告は、商法六六二条により、亡飯島の相続人全員及び父母が有する損害金請求権につき、右支払金額を限度として取得したことになる。

二  そこで、被告の反論(被告の運行供用者責任の有無)について検討する。

甲第一ないし第一〇号証、乙第一号証の一、二、第四号証及び被告本人尋問の結果によれば、以下のとおりの事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

1  被告と小林は、昭和六二、三年ころ知り合つた。小林は、被告と特に親密な間柄でなかつたものの、二、三回、被告宅を訪ねて、宿泊したことがあつた。そして、平成六年二月ころ、小林は、被告宅を訪れ、小林が失職していたこともあり、被告の好意により、被告宅に継続して滞在するようになつた。被告は、当時、妻子とともに肩書地で生活していたが、水戸市内で焼肉店を開業するための準備に多忙を極め、自宅を留守にすることもあり、その際は、小林が被告宅に残ることがあつた。

2  被告は、平成五年九月ころ、加害車両を、友人から譲り受けて、取得した。自らは、殆ど、使用することはなく、また、車検が切れた後、廃車にするつもりであつたが、廃車手続を採ることなく、自宅敷地内の駐車場に止めたままにしていた。ドアには鍵を掛けずに、助手席のダツシユボードの中にキーを保管していた。

3  被告は、平成六年三月二〇日から、家族とともに水戸市内に泊つて、前記開業準備をしていた。小林は、被告宅に独りでいたが、翌日午後三時ころ、被告に無断で、加害車両を運転し、午後八時二五分ころ、本件事故を起こした。

以上のとおり、〈1〉被告と小林は、古くからの知り合いであり、継続的な交友関係があつたこと、〈2〉本件事故は、小林が、一か月以上の長期にわたり、被告宅に宿泊している間に起こされたものであること、〈3〉被告は、自身が外出する際に、小林に留守宅をゆだねていたこと、〈4〉被告は、加害車両について、ドアを施錠をせず、キーを車内に保管していたのみならず、時折、キーを掛けたまま放置したこともあつたこと、〈5〉小林は、事故当日より前にも、加害車両を使用したことがあつたが、被告はその点を認識していなかつたこと、〈6〉本件事故を起こしたのは、小林が、運転を開始してから、僅か五時間後であつたこと等、被告と小林との関係、被告の加害車両についての保管態様、小林の加害車両の利用状況などを総合考慮すると、小林が加害車両を被告に無断で運転したことにより、加害車両に対し有していた被告の運行支配が失われたものと解することはできない。

被告は、(ア)被告が小林に対し、加害車両の使用について許諾を与えていないこと、(イ)本件事故が、加害車両の保管場所から約四〇キロメートル以上離れたところで起きていること、(ウ)被告には、車両の保管について過失はなかつたこと等を挙げて、被告の加害車両に対する運行支配は失われたものと評価すべきである旨主張する。しかし、前掲各事実に照らすならば、被告の加害車両についての保管状況は、自己の所有に係る車両が第三者に使用されて、事故の原因となり得る危険性があることを全く念頭に置かず、第三者が容易に使用できる状況の下に置いていたものであり、その管理態様は極めて杜撰であつたというべきであつて、車両の管理上、落度がないということはできず、この点を考慮すれば、被告の右主張は、採用の限りではない。

したがつて、被告は、本件事故当時、加害車両を自己のために運行に供するものとして、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

三  右の事実によれば、原告の請求は理由があるから認否することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 飯村敏明)

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